金緑玉・4話

 おそらく古代王国時代には兵力の一つだったのだろうとか、ある程度の知能を持ち合わせていたかもしれないだとか、犠牲となった村を偶然訪れた為に事件解決の立役者となった冒険者達は後に教えてくれた。彼らが元凶とも言える魔術師の住居を強襲し、広い地域に散らばった『奴ら』を駆除する方法を調べ出したのだ。
 だが、どれも、すでにレゼッタにはどうでもいい事に変わっていた。『奴ら』の正式名称だとか、作成した魔術師の名だとか、そういうものが一体何になると言うのだ?
 当たり散らしたいような衝動が湧いても、それを実行する気力は萎えたように消えた。疲れ過ぎていた。
 友、仲間、部下の死が全ての気力を飲み込み、彼に悔悟の念を引き起こして苛んでいた。
 今でも、あの時の疲れが体に残っているような気がする。季節はやがて二巡目に入ろうとしているのに。そう、暇を見付けてはこの道を通うようになって、もう二年目----
 そこで突然、彼の思考は止められた。
 後ろから走りよってくる気配に振り向いた。途端、鮮やかな色が目に入った。緑色。金緑玉の、陽光の下の色。スカルピアの髪の色。
 刹那息を止めて、それからレゼッタはため息と共に言葉を吐いた。
「…なんだ、ゼーヤか」
 足を止めたレゼッタの前で、膝に手を突いてぜいぜいと荒い呼吸をしていた短い髪の少女は、勢い良く顔を上げると文句を言った。
「なんだはないでしょ」
 彼の胸までしか背がないエルフの少女は、見事なまでに鮮やかな緑の髪をしていた。均一には染めていず、前髪や耳の前の髪だけを濃く緑にしている。決して不自然ではなく、全部をその色に染めれば植物の精霊ドライアードの様な印象を残すのにと思わせるような草葉の色で、その色は陽光の元に在るスカルピアの髪の色と酷似していた。
「ひー、息切れるぅ……」
 少し前に知り合った冒険者の娘だった。外見は十四、五で、実は実年齢と一致している。
 確か、彼女がタイデルに定住し始めたのはそう昔の事ではなく、だから彼女は自分が率いた討伐隊の話を知らない筈----レゼッタはそう無意識に考えて、その思考の動因に気付き、自己嫌悪に押し潰されそうになった。自分にあの事件を隠そうだとか、忘れ去ろうだとかとしている部分が有るのは、死んだ者たちに申し訳なく堪らない事だった。
 気付くと、不思議そうに少女はエルフの割に大きめの瞳で真っ直ぐにレゼッタを見上げている。純真な印象を受ける、戸惑いの笑みが向けられた。
(一瞬でもスカルピアと間違えるとは、どうかしている…)
 レゼッタは苦笑を洩らした。
「官舎でこっちに行けば会えるって聞いて追ってきたんだけど、足速いんだもんな…聞いてる? レゼッタさん」
「…ああ。珍しいな、何の用だ。何かあったのか?」
「んー、あたしは使い走りなの。えー、テンプル・ロヨラ嬢の御用でっす、出来れば貸してた宝石を返して欲しいそうです。なんかあれは大事な物だから、必要なら代りを貸しても良いからって。ま、急ぎじゃ無いらしいんだけど、レゼッタさんに、久々に会おうと思ったから」
 戯けた調子でそう言って瞳を細める。
「そうか」
 彼女の冒険者仲間であるテンプルという娘から、確かにレゼッタは宝石を借り受けていた。ただ、どういう風に説明すれば良いのだろう…その宝石が、今どういう状態にある誰の手にあるのか。納得のいく説明はどうも出来そうに無かった。
 ちらりと、先程の自己嫌悪の残骸が心をかすめた。彼女に悟られないように努力するという事、それは過去を隠蔽しようとする事に他ならないのではないだろうか?
 口にした後で驚くような言葉が、口から滑り出た。
「…今から取りに行くところだから、お前も付いて来ないか?」
 ゼーヤは戸惑いながらも頷く。
 玉響の黙思は、レゼッタには思いがけぬ事に、不思議と明るい気持ちと共に結論に達した。
 もしかしたら、もうずっと、誰かに話して少しでも心を軽くしたかったのかも知れないとレゼッタは自照した。

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