金緑玉・14話

 入口から足音が響いてくるのを聞くに及んで、ゼーヤの心は完全に焦りで埋めつくされ、心臓の音が大きく響き出す。
 また新手の刺客だ!
 足音が角を曲がった。…そして次を曲がれば、あたしたちが見える……
「アルトファーゼぇっ!!」
 ついに叫んだ。少しぐらい息を殺そうと姿を隠していないなら無意味だ、一度大声を出すと開き直りが来て少し楽になった。
「アルトファーゼ、奥! 奥に走って! 動いて!……レゼッタさんすぐ来てぇぇ!!」
 近付く足音が何か確信を持ったものに変わった、というのは錯覚では無いだろう。角から人影が二つ走り出た。身構えてもいない二人の姿を見つけ、威すように残忍に笑いながら、小剣を振り上げ駆け寄る。
 アルトファーゼは何の変化も見せない。
『ね…眠りを撒けサンドマン、お前の眠りの砂をそいつらの眼へ!!』
 ナイフを左手から滑り落とし、数度宙を引っ掻くような仕草と共に、ゼーヤは叫んだ。
 こんな乱暴な詠唱に精霊は答えてくれるだろうか……二人を相手に魔法を行使した疲労の中、ゼーヤは夢中で祈る。
 効いた! 後方の男が崩れ落ちた。しかし刹那、歓喜が絶望に変わる。前を走る男はさらに怒りを滲ますように速度を上げたのだ。男は剣を振り被った。

 アルトファーゼは迫り来る危険、襲い来る剣の存在に漸く気付いた。心とは別に存在する理性は、それが目前の自分を庇い立つ緑の髪の人物を直撃すると正確に判断する。
 心の奥で立ち竦んでいた何かがパキンと音をたてて飛んだ。悲鳴が口から漏れ出た。
「………副長……!」

 自分に向けられたアルトファーゼの声の意味をゼーヤは正確に理解した。同時に、触れ合う体から直に伝わる絶望をも共有する。
 剣の軌跡が迫る……間に合わない!
『そいつと遊んでやれレプラコーン!!』
 ゼーヤの額の寸前で剣が揺らいだように動きを止めた。
 すかさずゼーヤは行動に移る。後方に現れた気配に安堵を感じつつ、彼の精霊魔法によって突然立ち竦んだ目の前の男に手の平を突き出して叫んだ。
『光の精霊ウィル・オー・ウィスプよ、我が前に出で来、輝くその光で照らせ!』
 同時にアルトファーゼの体にぶつかるようにして、彼ごと後ろに飛び退る。
 突如現れた閃光がその場を焼いた。召喚した光の精霊を、男にぶつけたのだ。男の体を衝撃が揺さぶり尽くし、その奔流が何処かへと消えていくのを精霊使いの感覚が感じ取る。

 世界に存在する光と名の付く全ての種を含む、白く黄色く青く、激しく輝く奔流が周囲の空間を掻き回す。
 混じり合って真っ白なその世界で、ゼーヤは共に倒れ込んだアルトファーゼの手の金緑玉が紅に輝くのを見た気がした。
 同時にアルトファーゼの瞳は、光に輝くゼーヤの緑色の髪を見つめていた。

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