金緑玉・15話
光の削裂はほんの一瞬だ。目が物の色を判じられるようになると、直にゼーヤは体を強ばらせアルトファーゼに覆い被さり庇う。しかし、倒れた男はぴくりとも動かなかった。
胸を撫で下ろし、そのまま顔をアルトファーゼに向けて、瞳を覗き込み問う。
「アルトファーゼ……?」
名を呼ぶ声に確かな反応が彼の心の水面下で起こったのを感じ取り、無意識に更に近寄る。透き通る色ガラスの様だった彼の瞳は、今、確かにその色で視線を受け止めている。
レゼッタは息を呑み、凍りついた体を感じながら、離れた場所で動けずにいた。
紛う方無く、アルトファーゼに『意志』が取り戻されつつある。
「副長」という言葉を、ゼーヤに向けてそう呼んだ声を、レゼッタは聞いた。光の精霊が崩壊した瞬間の、ゼーヤの変わらぬ髪の色に一瞬の驚愕を表したのも、全て見た。
彼が先程の須臾をあの時と重ね合わせた事を、レゼッタはこれ以上もない程に理解した。
(やめてくれ)
突然そう思った。お前は又、俺の前で俺を見て狂うのか。それならばいっそ
、いっそ正気など取り戻さないでくれ……
「……ぁ……!」
擦れたゼーヤの声が響き、レゼッタは現実を取り戻した。
倒れ伏していた筈の男が、いつの間にか立ち上がり、握り締めた剣を強く引き戻している。倒れた振りをしていたのだ。
ゼーヤの膝が折れた。アルトファーゼからずり落ちるように背中が彼の体を滑り、頼りなく腰が床に落ちる瞬間、凶悪な笑みと共に刺客の剣は体重を乗せ突き出された。
銀の小剣がそれを弾いた。
一瞬遅れて、煉瓦の床に何か小さな固い物が落ちる音がした。
金緑玉が煉瓦に跳ねた。
それを捨て、アルトファーゼはゼーヤの抱えていた小剣を掴んだのだ。
数度の金属音がゼーヤの意識を遠く通り過ぎた。四度目のアルトファーゼの攻撃が鮮やかに男の革鎧を切り裂き、男の動きを今度こそ本当に止めた。遺体の崩れ折れる様が、スローモーションに見えた。
掛ける言葉を失い、薄く唇を開いたまま見上げる透明なゼーヤの瞳に、アルトファーゼは笑い掛けた。困ったような、しかし何か自信を感じさせる表情、それはおそらく彼の本来の笑みなのだろう。
「……女性を守れないような奴は、騎士じゃない…貴方が教えて下さった唯一の、騎士の心得でしたよね」
転がすような綺麗な声で、後ろのレゼッタに向いて言った。声の微かな反響が消え去るまでレゼッタは動けなかった。
アルトファーゼの顔が引き攣り、歪みが表情をはっきりと壊すまで、立ち竦んでいたのだ。
レゼッタの足が徐に動いた。ほんの少しの距離なのに、もどかしさが焼け付くようだった。しかし着実に間は縮まり、レゼッタはその手をアルトファーゼの両の肩を強く掴むように置いた。