金緑玉・17話

 眠りに落ちたアルトファーゼをベッドに残し、二人はそっとドアを出た。閂はそのままに扉だけ閉じて、音を立てないように離れる。
 死者一名…詰め番の老人だけが帰らぬ人となった。門にいた受付の女性は怪我だけで済み、患者、そして標的だった公爵家の三男も全て無事だ。ゼーヤが『永遠の眠り』に落とし込んだ刺客の一人の口から黒幕の名が出、事件の全貌が明らかになるのも近いだろう。
 レゼッタを非難し、それでいて戸惑ったようにレゼッタに縋り続けたアルトファーゼは、駆け付けた兵たちの中で意識を失った。カイエンの取り計らいで事件の事後処理から開放された二人は、慌てて彼を手近な部屋のベッドに運び込んだ。
 ほんの少し前、アルトファーゼは短い時間目を覚まして言った。
「夢じゃ、やっぱり無いんですね。…もう、ねむりたい」
 その言葉を反芻していたレゼッタは、急に足を止めて床に手を伸ばしたゼーヤに気付いて、理由を問うた。
「これ」
 ゼーヤの手の平に、暮れた日に点された廊下の蝋燭の灯りを受け、金緑玉が暗く赤褐色に輝いている。
「ねえ、あたし、緑の髪で生まれて良かった。意味が有ったのかも知れない、って今思ってるから」
 類まれなる宝玉をそっと握り締めてゼーヤが呟く。
 レゼッタは答えた。万感の思いを込め、
「ありがとう」
と。
 そっと微笑み合う。
 思いついてレゼッタは話した。
「その石を返しに行くのに、俺も行こう。礼を自分で言いたいんだ。
 …その石、傷ついてはいないか? 床に落ちたが」
 揺らめく炎に翳し見てから、ゼーヤは首を振った。
「ううん、傷一つ無い」
 自然に心に浮かんだ言葉を、ゼーヤは己に戸惑いながらも口にした。
「本当に、完璧なままよ。固いものなのね、全然傷付かないなんて……。
 まるで、死者の思い出の様に」
 スカルピアの笑顔と、壮絶な死の直前がレゼッタの脳裏に交錯した。
「…赤褐色の宝石、なれど陽光受けたその姿朝日を浴びた森林のごとく輝く。色を変えるその様、明日の色を見せぬ未来の姿に似てはいまいか……」
 それは広く伝わる、伝承歌だ。古代王国時代の詩の一節と言われる。謡うように呟き、そこでレゼッタは止めた。
 ゼーヤの唇が次の言葉を続けようとしているのを見て、レゼッタは彼女も又、この詩を暗謡しているのだと知った。知られておらぬ、続きと共に。

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