幻界人 ・11話
この明かりの暗さでも、部屋の中を見渡せる広さ。入口近くに居た見張りらしき奴はギィが行動不能にした。残る三人の内二人はギィが相手をしていて、一人は俺が切った。
ドゥスと視線が合わずに済んだ事に何故か安堵を感じながら、俺は切り倒した相手の出方を待った。
抵抗するようなら殺すつもりで剣を構える。
部屋の同じ側の端では、ギィが幅広の大きな両手剣を振り回し、男たちを切り倒している。どちらかと言えば砕いているようにも見える。遠慮の無さが素晴らしい。そんなギィを残酷と思ったことも有った。そんな事は無かったんだな、と今頃になって気付いた。
呻いて起き上がってくる男の腹に剣を突き立てようと腕に力を入れた時だった。
俺の耳に、か細い女の悲鳴が届いた。
クシュカの声だった。脳味噌に氷水を流されたような感覚が走った。
身を直様(すぐさま)ひるがえしていた。床に転がる男を追って前を通り過ぎていた隣室への扉、その向こうから悲鳴は聞こえた。
悲鳴と言うには弱々し過ぎるところまでも、間違えよう無くクシュカの声。
いつもなら絶対にしないようなことを俺はした。敵に無防備な背中を見せるなんて事をどこの馬鹿がやるだろう?
俺がやった。
やばい、と思った瞬間には、もうかわせないところまで剣が迫っていた。
◆ ◆
確かにジョスランは筋が良い。
嬉しくなる強さだ。
私は再三、剣を弾き飛ばされそうになった。
切り結ぶ、離れる。間合いを取る。掛かっていく。幾度も幾度もそれを続けた。
手加減しているのか私に、と数度思った。年齢的にも、近頃の自己鍛練の度合いにおいても、ジョスランの方が明らかに優位だろうと思っていたからだ。だが、私たちは数分以上、相手に決定打を与えられぬまま剣を合わせている。私の腕はまだ落ちていなかったらしい。
息子に剣の稽古を付けている気分になる。いったい何年振りだったか? 息子が突然に大きく成長したみたいだな。
そんなことを思っている隙を、ジョスランは見事に突いてくる。視界の外から、変則的な動きで、剣を槍の様に刺してきた。
辛うじてこれを避ける。
飛び退り、お互いに一度息を吐いたところで、タリアの悲鳴の様な声が上がった。
「旦那様、坊ちゃま、お止め下さい!!」
私は思わず表情を和らげた。悲壮な声すぎるよ、タリア。そう思ってジョスランの顔を見ると、同じ様に口元で笑っていた。
私の視線に気付き、その表情が幕の上がった時の役者の様にぱっと変わった。
見慣れた観のする、憎しみに近い激しい顔だったが、私の心に負の感情は起きなかった。
それは、私の愛する種類の強さだった。
しぶとさこそが冒険者の美徳だ。